過渡特性で聴こえる音

装置の音がいい音かどうかというのは,判別の基準としては個人の好みもあり,また一人ひとり聴いているポイントが違っていたりするので,これは非常に難しいものがあると思います.さらにジャンルや演奏によって装置との相性も出てきますので,さらに話はややこしくなってきます.私の場合は,そこに立ち入る前にソースに入っている,録音されている音がどれだけ出し切れているかを判断の基準にしています.早い話が,2センチの口径のツイーターと38センチのウーファーを並べてパイプオルガンの低音を比較すれば,38センチのほうからは低音が出てるし,ツイーターからは出ません.逆に高音の再生では,ウーファーからはツイーター並みの音が出ません.これは周波数特性の面から明らかになる音の再生能力の性能です.しかしながら音がきちんと聴こえてくるか聴こえてこないかは,周波数特性以外の要素があります.歪,雑音や過渡特性などです.スピーカーなどで小さな口径で周波数特性を低い方に持っていこういとすると共振周波数を低くするためにコーン紙を重くします.結果として能率が落ちますので,(たいていの小口径はボックスの容量を小さくしていますので,こちらの要因もかなり大きいのですが)大出力のアンプで駆動して音量を確保します.しかし重いコーン紙というのは過渡特性の面で不利になります.アンプやスピーカーを測定する時に使用する波形はたいがいサイン波で,この定常状態で測定を行います.しかし実際の音楽の再生ではこのような定常状態は,ほとんどあり得ず(音階の変わらない口笛くらいでしょうか?),実際は波形と波高がダイナミックに動く過渡状態が連続します.この過渡状態の連続から人間は耳と脳で音を識別して音楽として鑑賞するわけです.元にもどって過渡状態には,波形の立ち上がりのときと立下りの二つがあり,前者はアクセルを踏んだとき,後者はブレーキをかけたときに相当します.このとき一定速度まで加速する時間と一定速度から停止するときまでの時間が少なければすくないほどいいわけです.当然ゼロが理想です.これを実現するためには,磁力無限大のマグネットに質量ゼロの振動系(コーン紙,ボイスコイル,ボビン,エッジ,ダンパーが抵抗成分にならないということです.)をつけて駆動すればよいことになります.まあそこまでいかなくとも振動系を軽量にするということは過渡特性を上げる大きなメリットがあります.コンデンサ型のスピーカーなどは薄い軽量のフィルムを振動させることによりこのメリットを享受できます.(ただ全面が同一位相で駆動することが困難だったり,安定した電界を振動フィルムの動作位置に適応させてかける難しさはあります.)低音の再生を諦めて強力なマグネットに強く軽いコーン紙を組み合わせて,能率と過渡特性を上げるという方向のスピーカーも存在します.このようなスピーカーで音楽を聴くと今までの重いコーン紙のスピーカーで識別できていなかった音が識別可能になり,”聴こえていなかった音が聴こえてくる”と感じることがあります.写真のスピーカーはドイツは,テレフンケンの1960年代のスピーカーですが,周波数特性は非常に貧弱ですが,その中音域の再生力には素晴らしいものがあります.フルレンジでネットワークを使用していないことも過渡特性をよくできる上でのメリットです.一般に高能率のスピーカーは過渡特性に優れています.最近のスピーカーは大きさの割りには広い周波数特性を実現して大型のシステム顔負けの音を出しますが,細かいニュアンスを本当に描ききっているのでしょうか?写真のスピーカーは2ワットの耐入力で高さがわずか15センチですが,中音域のニュアンスの再現には現代の高性能スピーカーにはないよさがあります.(と私は思っています.笑.)


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