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November 15, 2006

過渡特性で聴こえる音

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装置の音がいい音かどうかというのは,判別の基準としては個人の好みもあり,また一人ひとり聴いているポイントが違っていたりするので,これは非常に難しいものがあると思います.さらにジャンルや演奏によって装置との相性も出てきますので,さらに話はややこしくなってきます.私の場合は,そこに立ち入る前にソースに入っている,録音されている音がどれだけ出し切れているかを判断の基準にしています.早い話が,2センチの口径のツイーターと38センチのウーファーを並べてパイプオルガンの低音を比較すれば,38センチのほうからは低音が出てるし,ツイーターからは出ません.逆に高音の再生では,ウーファーからはツイーター並みの音が出ません.これは周波数特性の面から明らかになる音の再生能力の性能です.しかしながら音がきちんと聴こえてくるか聴こえてこないかは,周波数特性以外の要素があります.歪,雑音や過渡特性などです.スピーカーなどで小さな口径で周波数特性を低い方に持っていこういとすると共振周波数を低くするためにコーン紙を重くします.結果として能率が落ちますので,(たいていの小口径はボックスの容量を小さくしていますので,こちらの要因もかなり大きいのですが)大出力のアンプで駆動して音量を確保します.しかし重いコーン紙というのは過渡特性の面で不利になります.アンプやスピーカーを測定する時に使用する波形はたいがいサイン波で,この定常状態で測定を行います.しかし実際の音楽の再生ではこのような定常状態は,ほとんどあり得ず(音階の変わらない口笛くらいでしょうか?),実際は波形と波高がダイナミックに動く過渡状態が連続します.この過渡状態の連続から人間は耳と脳で音を識別して音楽として鑑賞するわけです.元にもどって過渡状態には,波形の立ち上がりのときと立下りの二つがあり,前者はアクセルを踏んだとき,後者はブレーキをかけたときに相当します.このとき一定速度まで加速する時間と一定速度から停止するときまでの時間が少なければすくないほどいいわけです.当然ゼロが理想です.これを実現するためには,磁力無限大のマグネットに質量ゼロの振動系(コーン紙,ボイスコイル,ボビン,エッジ,ダンパーが抵抗成分にならないということです.)をつけて駆動すればよいことになります.まあそこまでいかなくとも振動系を軽量にするということは過渡特性を上げる大きなメリットがあります.コンデンサ型のスピーカーなどは薄い軽量のフィルムを振動させることによりこのメリットを享受できます.(ただ全面が同一位相で駆動することが困難だったり,安定した電界を振動フィルムの動作位置に適応させてかける難しさはあります.)低音の再生を諦めて強力なマグネットに強く軽いコーン紙を組み合わせて,能率と過渡特性を上げるという方向のスピーカーも存在します.このようなスピーカーで音楽を聴くと今までの重いコーン紙のスピーカーで識別できていなかった音が識別可能になり,”聴こえていなかった音が聴こえてくる”と感じることがあります.写真のスピーカーはドイツは,テレフンケンの1960年代のスピーカーですが,周波数特性は非常に貧弱ですが,その中音域の再生力には素晴らしいものがあります.フルレンジでネットワークを使用していないことも過渡特性をよくできる上でのメリットです.一般に高能率のスピーカーは過渡特性に優れています.最近のスピーカーは大きさの割りには広い周波数特性を実現して大型のシステム顔負けの音を出しますが,細かいニュアンスを本当に描ききっているのでしょうか?写真のスピーカーは2ワットの耐入力で高さがわずか15センチですが,中音域のニュアンスの再現には現代の高性能スピーカーにはないよさがあります.(と私は思っています.笑.)

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November 14, 2006

良い音?の物理指標について

周波数特性,歪率,出力などは比較的わかりやすい指標なのでオーディオを趣味とする人は,どうしてもこれらをガイドとしてシステムを構築していきますが,ある程度やっていくと,あれれ,はてな,と思うことにぶつかってくることがあります.周波数特性とか歪率が非常に優秀なのにちっとも思ったとおりの音がしないという場合です.ここらへんが天国,地獄,泥沼の最初の分岐点になることが多く,悩ましいところでもあります.そうすると別の支配要因を考えるわけですが,物理学の範疇にふみとどまるならば,過渡特性,位相差,指向性,雑音などが考慮の対象になります.さらに生化学とか脳の情報処理まで立ち入ると人間はセンサーとしての耳,伝達系としての神経,それを処理する脳のメカニズムとアルゴリズムまで立ち入ってきます.そうすると,例えば良い音の条件として,超微弱な残留雑音は,残留雑音ゼロよりも人間の生体に心地よさを与えるとか,1/f の揺らぎがあったほうが良いというものなど,さまざまな仮説が成り立つことになります.これらはまだまだ解明されていないことが山積しているというか,ほとんど解明されていないに等しいということになるかも知れません.そのような学問上の仮説や追求とは裏腹に,多くの人に支持されるヒット曲,名曲,名演奏,それを奏でる名器,すばらしい音響,そしてその装置は,やはり存在します.なぜよろしいのかは判然とはしませんが,よろしいものはよろしいとしか認めざるをえませんからこれもまた結果オーライ的になってします.オーディオの世界には,謎と不思議,伝説と迷信,魑魅魍魎と幻,先端技術とビンテージ,お宝名器と産業廃棄物系ゴミ,科学とオカルト,研究者と評論家,メーカーとディーラー,詐欺師まがいの商売人と強烈なマニアが渾然一体と生息していますのでなかなか興味深いところです.その世界に舟を出すわけですから,それなりの方針を持って進んだほうがよいでしょう.というわけで,誘惑と幻想にまどわされながらもなんとか科学の範囲に踏みとどまりながら進んでいきましょう.でもまあ本人の好みですから科学をあきらめて幻想と藝術の世界に浸るのもよろしいかと思います.というわけで,過渡特性からはじめたいと思います.

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